石匠と石工具の歴史

15.参考・石匠と石工具の歴史

■ 石匠について

 日本における石匠の歴史は、古代に優れた石棺が発掘されているところから、すでに古墳時代には、石作部と呼ばれる職能的な人が活動していたと思われ、奈良時代の「正倉院文書」の中には「石丸子人足」の名がみえて、石匠が存在していたことが知られる。
 下って、平安時代には、奈良春日山にある石窟の銘文から、当時の石匠は大寺に所属していた木工大工の下に属し、石匠としての独立性は乏しかったようであった。
 石工が広く社会的に認められた職業となったのは鎌倉時代に入ってからである。この時代の石造物には、石大工と称する銘が刻まれ、なかでも、弘長元年(1261)建立された槃若寺の笠塔婆や大野寺の磨崖仏には、伊派と呼ばれた石工の流派が活躍していた記録が残っている。
 南北時代に入ると、石匠の流派は世襲的要素が確立されたらしく、ことに九州地方では、大分県の延文5年(1360)建立の碑に、石工大工妙室、西蓮の名が見え、さらに、鹿児島県姶良郡の板碑には、大工乗性、小工了密の銘が見え、石匠にもこの頃から徒弟制度が発足したらしい。
 次いで、室町時代には、石工細工の工賃の外に梵字を彫る特技も高く評価され、大乗院寺社雑事記に、五輪塔造立費三貫二十三文の内、梵字彫りに30%の一貫を要したと記せられている。
 江戸時代になると、石匠の社会的地位は更に向上し、特に元禄時代には、それを裏付けるように墓碑や碑の建立はおびただしい数にのぼった。しかし、江戸時代も中期になると、墓碑や碑の造立が個人より講や寄合いで作られるようになったため、像や塔は大型のものが造立されるようになった。また、この時代の石匠の様子を江戸図屏風から眺めると、当時の石屋は、原石を建立地に取りよせて作る方法と、採石場に出向いて作る方法をとり、特に注目すべきは、既製品を売る商売的職人が現われた。

■ 石工具の歴史

 飛鳥時代に作られたと推定される奈良県の酒船石に見える矢穴の跡や、奈良時代に書かれた当麻寺曼荼羅縁記絵に描かれる槌とタガネの使用からでは、石工具の進歩の歴史は江戸時代まで遅々としていたようである。しかし、江戸時代に入ると、石工具は野取り(山石屋)系と石細工(町石屋)系の区別が明瞭になり、山石屋系には切山タガネ(石割りの溝堀り)、ノミ(矢穴堀り)、セット(片手槌)、矢(クサビ)、大ゲンノウ(大槌)などが使用され、町石屋系には細工道具を中心としたソバヨセ(先端が平べったいノミ)、コヤスケ(形を整える)、タタキ(石面を細かくたたく)、ナラシ(細かい突起部をたたく)、ビシャン(面が格子形に隆起した槌)などが用いられた。
 最後に、これらの道具を使用して像、塔が完成すると、つぎは文字や文様が彫られる。文字彫りの様式は、線彫り(細かい線で彫る)、薬研彫り(深さをV字型に彫る)、竹彫り(底面を竹のようにU字型に彫る)、押彫り(底面を四角形に彫る)などの彫り方があり、この彫り方のみは現代にも活用されてきている。

■ 石材業界における機械工具

 石材業界における加工用機械工具類も、いわゆる戦後の技術革新と近代工業化のニーズから著しく発展し、高度化された。ダイヤモンド工具が我が国に初めて輸入されたのは大正元年であった。当時はタングステンフィラメントを製造するダイヤモンドダイスであった。ダイヤモンドが切削工具として注目されはじめたのは昭和に入ってからである。日支事変が勃発し、軍需産業の発展とともにダイヤモンド工具の研究も進歩したが、戦争により壊滅的な被害を受け、低迷期が続いた。
 ダイヤモンド原石の輸入が再開されたのは昭和25年であり、我が国のダイヤモンド工具の製造技術に最も大切な粉末治金技術が開発採用されたのもこの頃である。やがて、電気工具の製造技術とダイヤモンドソーブレードのセッテング(組合せ)の開発により、各種加工石材の切断加工、建築材や大理石の切断などが機械化された。
 次にソーブレードの需要に拍車がかかりだしたのは、昭和30年代の後半で、その頃、多くの機械関係企業が産声をあげ、ユーザーの要望に応える技術の改良と開発で、今日の業界態勢の確立をみた。
 機械工具メーカーで製造される製品を大きく分類すると、

  �@ 石工諸道具   �A ダイヤモンド工具   �B 切断機
  �C 切断切削機   �D 研磨機        �E 彫刻機
  �F 穴掘機     �G その他

石工産業で使用されるダイヤモンド工具は、切断を目的とするゼグメントソーブレード(丸鋸)や、研磨用のポリシング砥石やコアー(穴)採集用のコアードリルと、応用製品として、小端摺ホイルや面取用カップブレードなどの各種ダイヤモンド砥石がある。

  �@ ゼグメントソーブレード
    石材の切断加工に使用される工具を大別すると、セグメントソーブレードとダイヤモンドガング
    ソー(帯鋸)に分けることができる。今日、ソーグレードの切断方式は大きく進歩し、シャロー
    カット方式と、ディープカット方式があって、前者は比較的大径ブレードに多く、後者は小径ブ
    レードに多く利用されている。
  �A ポリシング砥石
    メタルポリシャーとレジンポリシャーがある。
  �B コアードリル
    穴明け作業により得られた被削材は、その穴を使う場合と採集されたコアーを利用する場合に分
    けられる。コアードリルは、各種の用途に使われるが、被削材は機種ごとに外径15m/ mφから
    500 m/ mφに至る各サイズがある。


参考資料:岡崎石工品の手引き